こんにちは。今回のブログは中村文則さんの短編小説、「A」からの問いです。
この小説は以下の本に収録されています。
話の主人公は戦争中の日本軍。舞台は占領中の中国。上官の枠が空いて兵をまとめる立場になった彼は目の前の支那人を殺すように命令される。人殺しに抵抗しつつもなんとか支那人を殺す。その中での主人公と上官とのやり取りが記憶に残っている。
「畏くも天皇陛下は、我々がこのような無抵抗な狂人を殺害することをお許しになるのでしょうか」
・・・(中略)・・・
「陛下がお許しになるわけがないだろう?」
・・・(中略)・・・
「私達が戦争に勝てばこんな行為は揉み消せる。私達が戦争に負けても、これらの行為は敵側によって大げさに語られていき、やがて実態を失う。実態から外れていけばそれは真実ではない。・・・(中略)・・・消失にしろ強調にしろ、何もかもが実態からうやむやになっていく。つまり私達は歴史から断絶している。・・・」
正確な史実は当事者にしかわからず、それも立場によって歪められてしまう。それならば、歴史にはどんな意味があるのだろうか。
それは過去を理解し、よりよい未来を構築するためである。たしかに一つの文献だけを見れば、事実も不確かであろう。そうであるならば、物事を両面から見る、例えば戦争では戦勝国と敗戦国の両者の記録を見る、そうすることである程度正しい事実、ことの核心が見えてくるだろう。そしてそれを鵜呑みにするわけではなく、重要な観念だけを汲み取って、後世のためにする。それが歴史の使い方なのではなかろうか。
今を生きる人間が過去の歴史を学ぶことは重要である。しかしながら、その歴史の正しさは、実際にそれを経験したものにしかわからない。それゆえに、我々は真の意味で歴史を理解することができないことをわかっていなければならないのだ。